人体デッサンについての教本を調べていると、必ず一度は出会うルーミス著の「やさしい人物画」。
イラスト教本というよりは技法書ですが、内容がすばらしかったのでそのレビューをまとめます。

概要
本書は、初めて人物画を描こうとする人たちにも分かりやすいよう、合理的、系統的に人物画の描き方を解説したものである。(本書の内容より)
イラスト界の巨匠、A.ルーミスによる人物デッサンの技法書です。
ジャック・ハムの人体のデッサン技法とよく比べられますが、この2つの本は用途がまったく違います。ハムの本はテクニック本・辞書、ルーミスの本はむしろ読み物・画集としての作りが強くなっています。
「やさしい人物画」というタイトルですが、むしろ逆。
内容はステップアップではなく、初歩的な棒人間がでたと思えば、いきなりパースがでてきたりと、難易度がばらばらです。
解説もていねいではないし、写真の質もよくない、初級者がいきなり始めると困惑してしまうでしょう。
解説書としてはあまりおすすめしませんが、ルーミスの絵を描くものとしての考え方や姿勢の解説が非常にすばらしいものばかりです。
良いところ○
○線の引き方や人体を観察するときの着眼点、そういった『上手い人の考え方』を言葉にして教えてくれる。
ここまで的確に、かつ量の多い『考え方の解説』は過去にも未来にもこの本を越えるイラスト教本は出ないと思うほど。
○ルーミスのイラストが非常にキレイ。何十年も前の作品なので時代を感じることはありますが、プロポーションや人体の流れには古臭さがまったくありません。
美しい人体イラストを目指すひとはぜひとも手元におきたい作品。


良くないところ×
×骨や筋肉など、人体解剖学の説明があるが、どれも中途半端でわかりにくい。
×全体をとおして、難易度に一貫性がない。
テクニックや人体の描き方を学びたいなら、ジャックハムの方がおすすめ。ただアプローチがまったくちがうので、両方もっていることをおすすめします。
個人的な使いかた
「絵描きの心得」としての読み物、もしくは「ルーミスの画集」です。
ルーミスおすすめの練習法から、励ましの言葉までのっていて、スランプに陥ったときの栄養剤的な本です。
ただ、白黒で文字がずらっと並んでいるので、決して読みやすいとは言い難いレイアウトです。蛍光ペン片手に、「良い!」と思った格言には、がしがし線を引くのがおすすめ。

イラストよりはアート寄りな作品ですが、西洋人ばかりなのでプロポーションはアニメキャラに近いです。
ルーミスの描く人体の美しさは本当にすごい。ただ、手が描かれていなかったり単純化されてたり、おそらくルーミスも手を描くのが苦手だったのかな、と。巨匠の身近な一面を見れるのもうれしいです。
個人的評価
★★★★★
上手い人の頭の中はどうなってるの?という疑問をもっているなら、ぜひとも手に取ってほしい本。
初心者向けではありませんが、じぶんに必要な情報をえらぶ力にさえ自信があれば、早い段階ではいってもいいと思います。
やり切ってつぎへのステップアップ、というような本ではなく、絵描きである限りは半永久的にお世話になる本です。
ちなみに英語で書かれている原書は、著作権が切れており無償で見ることができます。
しかし素晴らしいのは読み物の内容なので、英語が得意な方以外は、日本語訳で出版されている本書の購入を強くおすすめいたします。