もうずいぶん前のはなしですが、雑誌「イラストレーション」205号を購入いたしました。
その目的はただ一つ、中村佑介特集です。
イラストレーターの中村佑介さん。
絵描きであればその名を知らないかたは少ないでしょう。
絵を描かない友人も、名前は知らずともその作品は「見たことある!」と口をそろえていうほどです。
彼の魅力は作品そのものだけではありません。
ご本人の絵にたいする姿勢や営業努力の抜かりなさ―――。
むしろ絵描きとして注目すべきは、中村先生ご自身です。
今回はイラストレーション205号の特集から、同じイラストを描く者として、ぜひとも抜きとりたいエッセンスの備忘録をお届けします。
イラストの最終目標をもつ
中村さんの少年時代、彼を魅了してやまなかったものがあります。
大ブームを起こした「ビックリマンチョコ」そのおまけのシールです。
この特集ではその生みの親であるイラストレーター・米澤稔さんとの対談がのっています。
この2人の対談、内容が非常に濃いです。
対談なのではじめから最後まで確立したテーマはないのですが、あちらこちらにいろんなエッセンスがいっぱい。
今回の特集で、個人的にいちばん学びが多かったのもこの対談でした。
印象的だったのが、この対談のなかで中村さんがかかげた最終目標です。
僕は最終目標としてはビックリマンなんですよ。(中略)子供が見ても楽しい、悪口だったり下品だったりじゃなくて、ウキウキするようなものをくれるっていうイラストレーション
(59Pより抜粋)
そのために試行錯誤をしながら悩んでいる中村さんへむけた、米澤さんのアドバイスも非常に参考になるので気になるかたは本誌をどうぞ。
いまの自分を把握する
米澤さんの対談にて最終目標を掲げられた中村さんですが、特集全体を通して現在の状況についてもいくつか語られてます。
・「絵を好きな人」「10代後半から20代後半くらいまでの女性」が主なファン層。
・感情の起伏が激しいものが描けない。
・毛が生えている動物を描くのが苦手。
・今の目標は対象年齢を広げたい。
などなど。
現在の自分の強みや弱点を正確に分析し、最終目標へ向けたいまの課題も把握しています。
自分自身のイラストと向き合う。
自分を客観的にみるのは意外と苦しいしかんたんではないですが、しっかりと分析する姿勢はみならいたいですね。
誰かの要素を取り入れてみる
中村さんは非常に多くの方から影響を受けています。
特集のなかで挙げられているのは、イラストレーター・ヒグチユウコさんや漫画家・あだち充さんなどなど。
たとえば耳の形だけをまねてみたり、動物の毛の描きかたを抜きだしてみたり。
小さいところに要素を取りいれて、模索し、自分なりにアレンジする。
同時に「表面的にまねする」ことにも、特集中何度か触れられてます。
素晴らしい作品に出合ったら、自分にないものを探し、その要素を盗むこと。
デッサン力とかセンスとか、あいまいなものではなく、「影にピンクを使う」とか「目のハイライトの入れ方」とか具体的であればあるほどいい。
表面上似ているものを作るのは出来るんですよね、大人になると。絵が上手くなるし、タッチや癖もだいたい掴めて来たりする。ただやっぱり決定的に何かが違う。
(59Pより抜粋)
手間を惜しまない
目標へ向けた中村さんの試行錯誤。
こだわりともいえるその一部が、この特集からみえてきます。
・研究
⇒服など外見的なことだけではなく、「その人たちの価値観」も研究する。どんな心理でその色や化粧が好きなのか、全部知りたいとのこと。
・情報量
⇒「面倒くささにこそ、他人は価値を認める」という考えをもとに、情報量を重要視している。手で描いていないいわゆるコピペは、中村さんいわく「コンビニのおにぎり」。イラストに詳しくないひとこそが、そのちがいを見抜く。
・他人の視点
⇒絵に詳しくないひとや、海外のひとの視点に注意している。
たとえば、イラストに孤独感を出したくて『寂しいと死ぬ』といわれるウサギをいれても、それが通じるのは日本だけ。
アメリカでは、ウサギは『性の象徴』なのでまったく別の意味でとらえられたり。
そんな経験をして以来、「日本の方言」について意識しているとのこと。
まとめ
それでは最後に、特集からみえた『中村さんという絵描き像』をまとめてみました。
・最終目標を見すえて、いまの自分を把握している。
・いろんな影響をうけながらも、「最終目標」と「自身のこだわり」この2つの軸をもち、そこは絶対にぶれない。
このかたの講義やツイッターをみると、その作品は「揺るがない営業努力の結晶」であることがよくわかります。
中村さんの姿勢自体、磨きあげられたものですから、いますぐにすべて取りいれることはかんたんではないでしょう。
じぶんを見直すための参考に、背中をおしてくれました。