今回はココナラにて販売しております、「イラストアドバイスのサービス」を購入していただいたNさんのイラストとそれに対するわたしのコメントを紹介します。
イラスト
Nさんからのメッセージ
「イラストはハロウィンに描いたイラストです。
バランスが悪いような気がするのですが、自分で見るとどこがダメなのかわからないです…。私は色選びがよくないのかな、と思いますが、どうでしょうか?アドバイスいただけると幸いです。
よろしくお願い致します。 」

ハロウィンに描かれたという、イベント感あふれるかわいい作品です。女の子のきれいな瞳と、ふわっと広がる柔らかそうな髪が印象的で、いっぱい描いてきたんだろうなあと思います。
色使いもオレンジと紫中心に、いかにもハロウィンで神秘的な雰囲気もすてきです。
あまりの完成度に、いただいたとき「えっこれにアドバイス?」と思わずたじろいでしまいました。
インタビュー
1、イラストソフトは何をつかっていますか?
CLIP STUDIO PAINT PRO を使っています。
2、目標とする絵描きさんはいますか?差し支えなければ、具体的に誰かも。
憧れは、東条さかなさん、茶ごまさん です。カラフルなイラストが好きで…
3、イラストの最終目標は何ですか?
ライトノベルのイラストを描くようなイラストレーターになりたいです。
5、現在イラストでもっとも悩んでいる点はありますか?
一番悩んでいるのは、いろいろな構図のイラストが描けないことです。圧倒的に左向きのイラストが多いですし…。どうしても難しくて、同じようなイラストを量産してしまいます。
前提として
まずはじめに、Nさんのイラストはすでに完成していらっしゃいます。
もしも「かわいい絵を描きたい」という目的であったとしたら、「すでに達成されていますよ」と応えようかなと思ってさえいました。
ただ「ライトノベルイラストレーター」を目標とするのであれば、そこへ向けたステップアップに必要な課題をいくつか発見させていただきました。
当然ですが私はライトノベルイラストレーターではありません。作家でも編集者でもありません。これからの指摘やポイントは、いち消費者として・いち絵描きとして、考えていることです。それをまず前提に、「ライトノベルイラストレーターに必要なイラスト要素」を3つあげます。
1、多少遠くから見ても目を引くイラスト
2、中高生に好まれる流行な絵柄
3、世界観を伝えるイラスト
以上3つです。
ライトノベル、つまりは本なので、あたりまえですが本屋に並びます。たくさんの作品が平積みされているなかで、表紙イラストを武器に、読者の目を引き留めないといけません。なので、多少はなれて見ても伝わる、目を引くイラストが必要になります。
また、ライトノベルのターゲットの多くは中高生です。中高生の流行に常に敏感でいる必要があります。中高生のうちはそれほど気にしなくても、自身がそこにいるのだから流行はばんばん耳にも目にも溢れんばかりにはいってくるでしょう。
問題はそのさきです。あなたが大学生・社会人になったら、ライトノベルのターゲット層もいっしょに上がるわけではありません。つぎの新しい中高生がターゲットになる。すでにあなたはターゲットの外側にいます。外側の人間からは、そのグループで何がはやっているかなんて、なかなかつかめないものです。
ではどうすればいいのか。必要なのは目を磨いておくことです。たとえば最近のアニメは彩度の低いものが多いです。いわゆるパステル調な色。pixivのランキングも原色を使った作品は少ないです。もちろん例外もありますが、最近のはやりはビビッド系よりもパステル調なようです。こんなふうに、常に流行を言葉にできるようにしておくと強みになります。
最後に世界観。ライトノベルはとくに独特な世界観を持つ作品が多いですね。なのでそのイラストにもそれを伝える力が求められます。
以上のことを考えながら、Nさんのイラストを見てみましょう。ここでは2つ、ポイントを紹介します。
ポイント1 コントラスト
例をみながら説明しますね。
(灰村キヨタカ画集 (2) rainbow spectrum:notes 表紙)
このイラストの彩度を落としてみる(色味を抜いてみる)と、こうなります。

もうひとつ、黒星紅白さんの画集からもおひとつ。
(黒星紅白画集 rouge 表紙)
彩度を抜くとこうです。

どちらの絵も、人物がはっきり浮き出て見えませんか?背景はにぎやかなのに、それに埋もれることもありません。
ではさいごに、Nさんのイラストを白黒にしてみてみましょう。

どうも、すこしぼやっとしてしまいますね。
人物が背景に埋もれてしまっているのです。とくに髪の毛はほぼ背景と一体になってます。
原因はなにか。コントラスト(暗い色と明るい色の差のこと)が、若干弱いようです。ほぼ明るさが同じ色で塗られている絵は、人物が埋もれてしまい、ぼやっとした印象を与えてしまいます。
イラストを塗るとき、色に迷わされてしまいがちです。でも実は、色よりもコントラスト(明るい色と暗い色の使い分け)を見直すべきケースが、少なくないのです。
参考記事:
ただ、Nさんのイラストで、現時点ですでにコントラストが非常にきれいにでている部分があります。キャラクターの目です。色味を抜いても白黒はっきりと形がとれ、とても綺麗な瞳ですよね。すでに確立されているやり方をもっているのかな、と思ったら案の定。レイヤーを何枚も重ねてかき込んだりと工夫されているそうです。この工夫はすばらしい魅力としてイラストにでてきているので、個人的にもぜひこのまま続けていただければ、と思います。
ポイント2 世界観
それでは2つめ「世界観」についてです。
ここで、Nさんの憧れとして挙げられているイラストレーターさんを考えてみましょう。
東條さかなさんと茶ごまさん、どちらも有名イラストレーターで、どちらもたぐいまれなる色彩のイラストが特徴的です。お二人ともとても素敵な絵描きさんですが、世界観の表現をより得意とされているのは、茶ごまさんのほうだと個人的には感じています。
世界観は平たく言うと、というよりイラストレーターの中村佑介先生の言葉を借りますと、「この世界に行ってみたい」とどれだけ思わせることができるか、です。
世界観を絵に埋め込む手法は数多く、もちろんわたしも知らないものも含め本当にたくさんあります。そのなかで一番かんたんな手法は、絵のなかに「暮らし」を見せることです。Nさんが憧れとする茶ごまさんは、小物を置くことでそれを行っています。
話をNさんのイラストに戻しましょう。この女の子は魔女っこでしょうか?もしそうだとしたら、魔法の杖やほうきが彼女の「暮らし」になりますね。ハロウィンで仮装中の普通の女の子であれば、もらったおやつがその「暮らし」になるわけです。
いわゆる「らしさ」です。そのキャラの「らしさ」を伝える。小物を使うのはかなり有効な手のひとつです。Nさんは、ちょうど茶ごまさんというすばらしい使い手をお好きでいらっしゃるので、かの作品からそのアイデアを勉強させていただくのをおすすめさせていただきました。
また、別方向のアプローチですが「背景」も世界観を伝える非常に有効な一打です。
家を描かれていますが、その家に少しだけ人物の影だけ添えてみたりすると、ぐっと世界が見えるようになるかと存じます。これも中村佑介先生の手法の受けおりです。
修正イラスト
以上を踏まえて、わたしが修正したイラストがこちらです。

くらべてみるとこんな感じです。


デッサン的な修正は肩の部分のみです。肩のふくらみがちょっと足りないかな、と思ったのできもちふくらませてます。

まとめ
最初にもいいましたが、すでに完成度が高く、正直びびりました。ご本人にもお伝えしましたが、個人的にとても好きなかわいい絵柄です。このまま個性を伸ばして、より素敵な絵描きさまになられることを心底楽しみにしております。そしてきっとそんなファンはわたしだけじゃないはずなので、ぐんぐん育ってくださることを祈るばかりです。
悩まれている構図についても、便利なツールを紹介させていただきました。構図の引きだしもぐんぐん増やして、今以上に色とりどりなイラストがNさんの手から生まれること、今後も楽しみにしています。