「お手本」は誰であれどんなジャンルであれ、上達には必要不可欠な代物です。しかしそれを見るだけでは、上達なんてぜったいにできません。プロのサッカーをいっぱい観戦したからといって、それで選手にはなれないのです。
必要なのは「お手本から盗むこと」です。今回はイラストにおいて具体的な「盗み方」、つまり「イラスト研究・分析」についてお話ししましょう。
イラストを集める

まずはイラストがなきゃ、話になりません。マンガ・画集・雑誌のアナログ媒体から、ピクシブ・ツイッター・ホームページなどデジタル媒体まで。とにかく好きなイラストを集めます。
数が多ければ多いほどたいへんな作業になりますが、そのぶん精度があがります。
集める場所はEvernoteがおすすめです。タグ付けも出来るし、ノートごとにわけられるので。
イラストをわける

つぎに集まった作品を並べて、分ける作業です。要素ごとにグループをつくっていきます。
たとえば「目の描きかたがすきな絵」「色塗りがすきな絵」といったように。とにかく細かくグループにしてみてください。
ルールを探す
お次は、そのグループ内で『共通するルール』を探します。
たとえば「目が好きな絵描きたち」は、どんな目を描いているのか。つまり『どんな目であれば、自分は好きだと思うのか』という答えを、ていねいに探してみるのです。
この作業には、「要素還元」という名前があります。日本を代表するCMプランナー、かつ東京藝術大学教授でもある佐藤雅彦さんのことばです。
「好きなもの、興味のあるものをとにかくもってきて並べる。そして、なにが自分を惹きつけているのか、その共通した要素をさぐる」という作業。
佐藤さんは世界中のCMに目を通して、かたっぱしから好きなCMをまとめました。そのなかで共通するルールをみつけ、「おもしろいCM23種類のルール」として自らのCMづくりに生かしたそう。
佐藤さんのみずからの「好き」を意識して掘りさげる作業が、「だんご三兄弟」などのヒット作を生み出したのです。
イラストはあまりに要素が多いため、わたしはあいだに「分ける」という作業をはさんでいます。分けられたグループ内でみつけたルールを、もう一度まとめる。
その集大成が、「あなたの理想のイラスト」となります。その目標がみつかるだけでも、上達におおきな一歩となるのです。
ルールのデータベースをつくる
ルールをみつけたら、まとめていきます。それがあなただけの「イラストルールのデータベース」です。
ここでは具体例を3つほど紹介します。
色
色合いが好きな絵をもってきてください。その色彩技術を盗むために、どんな研究が必要でしょうか。
わたしがおすすめするのは「色の抜き出し」です。好きな絵の色をスポイトで、ちょちょいと抜き出して並べてみるのです。
たとえば、りんご。りんごといえば赤ですよね。

でもほんとうに、りんごは赤なのか。抜き出してみると、案外たくさんの色でできていることがわかります。

わたしたちが物をみるとき、どうしても先入観がはたらいてしまいます。いわゆる「思い込み」です。色では特にそれが起こりやすい。
だからこそ、色を抜き出してみるのです。そうやって、「理想の色合いはどういう色でつくられているのか」のデータをストックしていきます。
ちなみに肌と髪、この2つはとくにまとめることをおすすめします。さらに髪は、髪色ごとにわけると使いやすいです。「黒髪に使われる色」「赤髪に使われる色」といった具合にね。
肌の色抜きだし▼

構図
「構図をとる」というのは、「キャンバス内に、なにをどう描くか」を決めることです。
だから人さまの絵から構図を考えるときは「構図を学ぶ」というより、「構図をどのように取ったかを学ぶ」といったほうがいいでしょう。
作者がその絵で『一番描きたかったもの』はなにか、そしてそれはキャンバスのどの位置にどのように置かれているか。構図とは、つまりは表現方法です。
表現したいものをどう表現するのか、そしてそれでなにが伝わるのか。それらを考えてまとめることで、『構図のデータベース』ができ上ります。
比率
代表が人体比率です。頭身がひとつ違うだけでも、人物の印象はがらりとかわります。理想な人体を描くひとの比率についてまとめておくと、わからなくなったときに便利です。

まとめ
プロのクリエーターが、ツイッターや本などで「いろんな作品を見ろ」というのを見たことはないでしょうか。それはそのまま言葉どおり「ただ見る」ことを指しているのではないのだ、と最近思うようになりました。
何度も同じようなたとえ話ですが、料理を上手くなりたい人がいろんな料理見たからって、料理が上手くなるわけじゃあないですからね。
必要なのは、「いろんな作品から盗むこと」。
料理だったら「ここで隠し味に味噌をいれるのか」とか、サッカーだったら「どんな足の出し方がいいのか」とか。イラストでもおなじです、ただぼんやり見ているだけではとうてい画力向上なんてできません。
「イラストの研究・分析」はそのためのひとつの戦略です。いい感じに磨きあげてはいかがでしょうか。